09年不況では“リバウンド消費”を獲得した商品が伸びた

09年不況は、何を残すのか。

私たちが立っているスーパーマーケットの陳列棚には、PB(プライベート・ブランド)が、以前よりも数多く並んでいるはずだ。また、不況は、企業の開発費を削減させ、意欲的、積極的な新製品展開が、乏しくなっている。 一方、コンビニには、割高の商品に代わって、タイムバーゲン等の商品がある。流通サイドの「供給努力」が、価格革命を進めた。不況に身の丈を合わせる努力をした商品群だ。

09年不況を乗り切ったのは、キリンビールの「フリー」など低価格でカロリー抑え気味などの付加価値がある第3のビールが急伸、ユニクロ、H&Mやフォーエバー21に代表されるファッショナブルで圧倒的に廉価なカジュアルウエア、あるいは、キューピーのサラダ・ドレッシングでは、商品ボリュームとコストを15%減量した結果、少子化家族に歓迎されてヒットした「需要創造型」商品等が勢いを得た。

この時代の空気と人々の意識を捉えてヒットした販促企画がある。 08年にイトーヨーカドーが仕掛けた「不用品交歓サービス」が、エコロジー意識にも働きかけ、話題になり、販促効果もあり、他社も追従する「バイラル喚起型」の見事なヒット企画になった。07年のクールビズに次いで、エコロジーの経済効果が顕在化し始めている。

新しいニュースもなく、商品を変えることなく、“ワッパー”を提供する。 アメリカ人が他のどのバーガーよりも愛してやまない“ワッパー”であることを唯一の自信にして臨んだ。

以上のように、不況に立ち向かい、買い場を変化させ、成果をあげた3つの方向があった:
1.商品、サービス価格を抑制した「供給努力型」
2.商品、サービス機能を高めた「需要創造型」
3.商品、サービス価値を高めた「バイラル喚起型」

1. 不況の足跡は、PB(プライベート・ブランド)が残した。

日本のPBは,60,70年代の多品種化の流れの中に登場し、90年代のバブル崩壊の不況に再認識され、2007年から目立ち始めたNB(ナショナル・ブランド)の値上げ攻勢に反発するように増え始め、2008年秋のリーマンショックの不況以降、イオンとセブン&アイ・ホールディングスの2大小売業が、本腰を入れてPBを市場導入し始めた。

イオンのPB「トップバリュー」は、(5,000~6,000品目:食品・衣料品・住居及び余暇用品・健康美容品※09年末)年商5,800億円を目指5増の年商3,200億円を目指している。
(一方、セブンーイレブン向けに新しいPBを開発し、世界15カ国、約36,000店舗で、1兆円の売り上げを目指すと発表している)。
その他、ローソンは百円均一のPB「バリューライフ」を200品目(09年7月)に拡大。ユニーグループのPB「イープライス」は、NBより2~3割安い価格設定で、年商234億円を目指す。

スーパー店頭に於ける、PBの比率は品目により約35%~5%まで差があり、最多は冷凍素材(34.8%)、 トイレットペーパー(26%)であり、最少は菓子(チョコレート、せんべい等5~6%)。※日経POS情報サービス

米国のPB市場は、NB価格より30%程度安いということもあり、食品分野中心にPB普及率20%、年率10%程度の高成長を遂げている。ニールセンの調べによると、食品・消耗品のPB市場は、08年に前年比10%増の8兆2千億円規模に。NB依存度の高かった大手スーパーのPB比率が、3年間で40% 程度に高まるとの観測もある。

PBが、NBの特性に近づくことで割安感が生まれ、生活者にとって「賢いチョイス」となり、より支持されるようになる。しかし、PBを受注するメーカーにとって、流通が大口顧客になるが、同時に競合相手にもなるため、NBの違いを明確化、顕在化することが、メーカーの命題になる。従って、PBは常にNBの型落ちであり、廉価なPBがNBを超えた性能、特性を持つことはありえないと思われる。これが、セブン&アイが自社PBを食品と日用雑貨に限定している理由だと思われる。いづれにしろ、PBの趨勢は注目に値する。

2. 09年不況は、2層構造の消費をつくった。

「ストレスにさらされると、意欲的な変革行動よりも、保守的な習慣化された行動を選択する」という脳神経学の 動物実験の結果がある(University of Minho in Portugal)。 不況の購買行動にもこの傾向が認められる。「当たり外れのある新製品より、いつもの安心ブランド」という実利的な判断が働き、新製品はよほどの画期性がない限り購買されない。 ビール業界に例をとれば、アサヒ「スーパードライ」やキリン「一番搾り」等が支持された保守ブランド回帰が、90年代のバブル不況下の消費行動だった。しかし、09年のリーマン不況では、様相が少し異なっているように見える。

09年不況は、まだ不況の入口、また米国の経済に薄日が射し始めていることもあり、深刻の度合いが薄く、失われた10年を経験していた90年代不況の「不安」と異なり、人々は「不満」を持っている感じがする。行き過ぎた市場原理主義、右肩下がりの経済環境の成果主義、不安定な雇用環境など、現状に対する「不満」が強いと思われる。また、09年の豊かな情報環境では、点の「知識」が、他の情報と面的に結びつくことによって「知恵」になっている。この「知恵」が、「不満」を解消する力になっている。現状「不満」が、衆議院選挙での政局のゆくえを決する「解」になったと言える。

現状「不満」をかかえた人々は、なんとかそれを解消しようとする。抑える、癒すの2方向である。 抑える方向では、バーチャル・ビールのような「第3のビール」の驚異的な成長や、NB商品がコモディティ化した状況での合理的な選択肢PB等に代表される「供給努力型」商品が、ヒットした。マジッシャンの右手の「廉価」だけにとらわれないで、左手の「付加価値」をちゃんと判断する「知恵」を持った生活者に支持、購買された。

癒す方向では、家でもない会社でもない“サードプレース”を求める気持ちがあるように、気持ちを抑制し、節約させ、削減などを強いる「引き算の生活」の“ダイエット”ストレスは、必ず“リバウンド”を誘発する。空前の来客数を記録したディズニーランドやショッピング・モールの盛況、安い高速道路を渋滞覚悟の家族旅行等に表れた。また、巣ごもりを一家団欒で楽しもうとするニンテンドーWiiや、巣ごもりスナックのポテトチップスの好調な売れ行きに見てとれる。

09年上半期のヒット商品を見てみよう。

“ダイエット”消費
09年「供給努力型」ヒット商品&サービス
廉価+付加価値
●<PBプライベート・ブランド商品> ブランド価値より実質価値
●ユニクロやフォーエバー21、H&M等の<ファースト・ファッション> 超低価格の先端カジュアルウエア
●上半期対前年比27.4%増<第3のビール> 安い、身体に優しい。ビール代替品
●発売2か月で年間目標達成のキリン<フリー> 飲んだ気分に。ノン・アルコール・ビール
●インサイト<ハイブリッド車> 低価格ハイブリッド車に政府支援金
●稚拙なアニメで制作費を抑えコストダウンを図った大ヒット持続の<ニンテンドーWii> 巣ごもりは、一家団欒で 
●5月末まで3千万販売のマクドナルド<クオーター・パウンダ―> サイズダウンではなく、ボリュームアップして廉価
●東急ストアに開店前から行列ができる<勝手値シール> 値引きしてほしい商品を自分で選べる
●ニッポン放送とメーカーによる店頭の特売ニュースを流し、予算比二桁増の売上を達成した「いなげや」 ラジオが教えてくれるタイムサービス
●セルフレジ主体のスーパー(イオンリテール2店、ジャスコ6店、オークワ40店) 顧客信頼システムで、コスト削減を商品に反映
●<サイドメニュー>を採り入れて客単価増を狙う 低価格のメイン・メニューに、サイドメニューの色どり

“リバウンド消費”
09年「需要創造型」ヒット商品&サービス
価値提案
●過去最高の入場者数(2,710万人)記録の<ディズニーランド>(09年3月期) 家族、友達で1日中遊べ、リピーターを満足させる「モンスターズ・インク」など新アトラクション展開
●客足をとぎれさせずに健闘した商社運営の<ショッピングモール> アウトレットショッピングにエンターテイメントを加味した
●1万円超の高価格帯にも関わらずヒットしたマックスファクターの女性乳液<SK-Ⅱサインズトリートメントトータリティ>  “SK-Ⅱ貧乏”という言葉があるくらいリピーターがいる。抗加齢効果で全年齢層の肌トラブルに対処 
●爆発的な売れ行きのプリウス<ハイブリッド車> 環境への配慮と低燃費に加えて政府支援金
●“友達親子”の母娘ペアをターゲットにしたキタムラ、<イセタンガール> 50代の母と20代の娘が共感する“かわいい”の提供
●ライブエンターテイメントの市場規模が前年比1.2%増の1兆1600億円へ スポーツ観戦が1.6%増の1057億円。Jリーグ動員数が発足以来最高の813億円に。バーチャルにはない生の魅力
●数少ない成長市場として女性ゴルフウエアが900億円市場に(パーリーゲイツ等) 中年男性イメージのゴルフを、女性向けにファッショナブルに
●前年2倍増の円高のウォン旅行 エステ、買い物で癒す安・近・短旅行

「供給努力型」商品は、企業の永続的な努力が、景気の身の丈に合ったと言えるが、不況のエアポケットに出来た“リバウンド消費”をとらえた「需要創造型」商品やサービスは、価値を提案し続け、不況を順風にし、生活者の支持を得たと言える。但し“ダイエット消費“を台無しにするほどの大型商品は少なく、プチ”リバウンド“を楽しむにとどまる。

3. サービス価値をあげて、バイラル喚起で、集客効果を達成した。

09年不況に、商品の枠組みを変えず、新しい画期的なサービス価値を提供した「バイラル喚起型」販促について 最後に触れたい。
08年末に、イトーヨーカドーが始め、他の流通、メーカーも追従した<不用品買い取りセール>とは:
衣料品や生活用品を一定額買った顧客に対し、不用品を買い取るサービス(※買い取る際に必要な購入金額は初回と2回目は5千円以上(買い取り金額は1品千円)、3回目からは3千円以上(同500円)※イトーヨーカドーでは、不用品の状態によって、リサイクルに回したり、海外援助活動に寄付したり、廃棄した)。

店舗にとってのメリットは、集客効果(5回計22日開催~09年3月まで、全国約160店舗):
不用品買い取りに10億4千万円支払い、58億円4千万円以上の売上があったことになる(168万点回収。最終7回目(5月27日~6月2日)までに、累計328万点を回収)。

顧客にとっては:

  • お金がかかる不用品の回収に対し、お金がもらえるお得感

  • 不用品を捨てるのではなく、お金をもらえることで、もったいないことをしている罪悪感がなくなる

  • 処分した衣類等が、貧困な人々を救うことになり、いいことをした気分になれる

  • 環境問題に貢献しているような美しい錯覚を味わえる

  • 家庭の収納庫や部屋に生まれる空きスペースが、新しいものを購入させる間接的な動機づけになる

ワコール=下着回収(捨てるのをためらう廃棄ストレスを感じている下着に対し、廃棄袋を提供して回収に成功。全国約650店舗で展開し、廃棄袋を持っての再来店比率が10%強の集客力)。
ユニクロ=「サンキューリサイクル」毎年3、9月に、まだ着用できる自社商品だけを回収。159万点(08年)の9割をアジア、アフリカの難民キャンプに寄贈。社会貢献と環境保護意識を高めるエコ販促が支持される。
その他実施百貨店=大丸・松坂屋・西武・そごう・東急・丸井

生活者にとってのエコロジーとエコノミーに、流通サイドの販促が加算された社会貢献型の「下取りセール」は、流通業界はもとより、その顧客メリットとともに、インターネットではなく、人の口の端にのぼり、集客効果のある“バイラル効果”を生んだ販促キャンペーンの成功例になった。